年金問題のQ&A

年金見通しに「粉飾」あり

去る2月6日、厚生労働省は、厚生年金の将来の給付水準について試算結果を、社会保障審議会に提示した。

 この数字は、人口の推移や厚生年金の加入状況などを基にして、通常は5年に一度計算し直されるものである。

前回は2004年なので、次は2009年に実施されるはずだった。
それが、例外的に今回実施されたのは、出生率の低下、少子・高齢化が予想以上に速く進行していることによるものだ。

 そのきっかけになったのが、昨年12月20日に国立社会保障・人口問題研究所が発表した将来人口推計の結果である。

それによると、2055年の合計特殊出生率は1.26で、総人口は8993万人。15〜64歳の生産年齢人口が現在から半減する一方で、人口の4割を高齢者が占めることになる。

 前回(2004年)の試算で前提とした出生率は1.39であるから、1.26というのはショッキングな数字である。

5年おきという慣例を破ってまで、年金財政を再検証すべきだと考えたのは当然だろう。

 だが、その試算結果には重大な欠陥があった。

 厚生労働省によれば、厚生年金の給付水準について、「モデルケースにおいては、現役世代の手取りの半額を保証する」としている。

2004年の試算では、この年金給付水準が50.2%と算出され、ギリギリ半額が確保された。

 今回、計算の基礎となる重要なデータである出生率は、1.39から1.26へと低下した。

子どもの数が減り、支払う側の人数が大幅に減るのだから、給付水準が低下すると考えるのは当然だろう。
誰がどう考えても、これは当たり前の理屈である。

 ところが、厚生労働省による試算結果は、驚くべきものだった。
出生率のデータを1.39から1.26へと下げたにもかかわらず、年金給付水準の想定が50.2%が51.6%へと上がったのだ。

こんなことがありうるのだろうか。素人が考えても、これはおかしいと感じるだろう。

 では、年金を支払う人数が減るのに、給付水準が上がるのはなぜか。それには、二つのカラクリが隠されていた。

 一つ目は、年金財政の計算に、このところの景気の回復を織り込んだことだ。厚生労働省は、景気の回復を受けて、賃金上昇率を前回の2.1%から2.5%に変更した。

 「なるほど、これなら現役世代の支払う保険料は増えて、年金財政が改善する」――そう思うかもしれない。
しかし、それは素人が陥りやすい勘違いである。

賃金上昇率を高めに見積もっても年金財政が改善しないことは、年金学者の間では常識になっている。

なぜなら、問題なのは「現役世代の手取りに対して、年金額が何%であるか」だからだ。

 賃金が増えたら、年金の額も同じ率で増やさないと、年金給付水準が下がってしまうのである。


もう一つのカラクリは、さらに重大である。
それは、積立金の運用利回りの問題だ。

 2004年の試算で3.2%と見積もった利回りを、今回は4.1%とした。
だからこそ、年金給付水準率が高くなったわけである。

 これには物価上昇分が含まれているので、実質の利回りは1.6%になるが、いずれにしてもこれだけの利回りを、本当に長期で確保できるのか。これが最大の問題である。

 利回りが名目4.1%と聞いてもピンとこないかもしれないが、これを50年複利で回せばどれだけの金額になるかお分かりだろうか。

 1.041の50乗=7.457。つまり、50年間で元金の7倍以上になる計算だ。

 いまのように国債中心の運用をしていたら、このような高い利回りはとてもではないが確保できるわけがない。

そもそも、国債の金利がそんなに高くなったら、今度は財政の方が破綻してしまう。

 厚生労働省によれば、景気回復を前提に試算したため、運用利回りが上がったというが、財政再計算は50年先までの将来を見通すものである。

目先の景気の善し悪しという要因を年金財政に織り込むことは、この面で見てもやはりおかしい。

では、高い運用利回りを確保したければ、どうすればよいか。
それは、村上ファンドに米国の年金基金が入っていたことを思い出すといい。

あのように、日本の年金基金も「ハゲタカになる」と
宣言すればいいのだ。

 それが本当にいいのかどうかは別として、株式の運用を増やしたりヘッジファンドでの運用を行ったりというように、運用体制

を抜本的に見直さない限り、長期間継続して4%台の運用を行うことなど不可能なのである。

 年金資金運用基金は、年金積立金管理運用独立行政法人という長い名前の団体になった。

本気で4.1%を実現するならば、その是非は別として、そこにゴールドマンサックスやサーベイラスの出身者を登用するといったことをやるべきなのだろう。

 そうした運用改善策の根拠を示さない限り、今回厚生労働省が示した年金財政の将来像は、粉飾決算と呼ばれても仕方がない。


「森永 卓郎氏の コラム」より

【略歴】
 1957年東京都生まれ。東京大学経済学部卒。日本専売公社、日本経済研究センター(出向)、経済企画庁総合計画局(出向)、三井情報開発総合研究所を経て、91年から且O和総合研究所(現:UFJ総合研究所)にて主席研究員、現在は客員主席研究員。獨協大学特任教授。テレビ朝日「ニュースステーション」コメンテーターのほか、テレビ、雑誌などで活躍。

 専門分野はマクロ経済学、計量経済学、労働経済、教育計画。そのほかに金融、恋愛、オタク系グッズなど、多くの分野で論評を展開している。日本人のラテン化が年来の主張。

【ホームページ】
http://www.rivo.mediatti.net/~morinaga/takuro.html
(森永 卓郎氏のページ)

           
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